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2012年9月23日 (日)

マイコプラズマにミノサイクリン

 マイコプラズマという病原体にマクロライドという抗菌剤を使用していたら、これに耐性をもってしまった病原体が出来てしまった。それなら耐性のないミノサイクリンを使用しようという考え方に一見間違いはない。しかし。。。という話。

 マイコプラズマによる肺炎は日常的によく見掛ける疾患である。幼児から大人まで誰でも罹っておかしくない疾患だ。閉鎖空間で一緒にいると、割と移ることも知られている。すべての感染症に言える事だが、罹患しても症状は千差万別。全く症状の出ない人もいれば、空咳が何週間も続く人、高熱で2週間ほど寝込んでしまう人など様々だ。発疹が出る人もいれば、関節痛に悩む人もいる。ただそのほとんどは何も治療せずとも2〜3週間のうちに自力で治ってゆく。

 そんなに待っていられないし、教室で勉強しているうちに移されたら勉学に支障も出るし、看病で両親だって職場へ行けない。だから感染者を隔離し、その感染者にはスパッと治る薬をという気持ちもわからないではない。しかし誰をいつまで隔離するというのか。どうなったら排菌しないという明確な基準はないし、それどころかマイコプラズマと診断する根拠もとても曖昧だ。この疾患では空咳をみることが多いが、本日行われた千葉での小児科学会地方会でも空咳か続く子供の3割しかマイコプラズマとの診断に至らなかったという報告がなされていた。また1回の採血などでは判定できるものではない。唯一LAMP法を施行している施設しかその場で正確な診断が出来るものではない。わからないものを隔離させるような登校許可書とか治癒証明書とかがいかにナンセンスかわかっていただけるだろうか。

 じゃあなぜそこら中にマイコプラズマ感染でしょうと言われる人がいるのかって?そりゃレントゲン像や臨床所見からの推測でしかない。日常的に繰り返される呼吸器感染症すべてにおいて、病原体を正確に探し当て、それに見合った治療が出来れば言う事はないが、そんな時間も材料も試験薬もない。類推しながら治療を行ってきたというのが本当のところだ。このためマイコプラズマにとてもよく効いていたマクロライドという薬は無茶苦茶使われてきた。そのせいかこの薬は実験上効かなくなってきているという。そうだろうか。。。

 確かにマイコプラズマ肺炎で入院してくる児は増えているように思う。しかし10数年前までは4年ごとに流行があったのが、この10年はいつでもどこでも見掛けるようになった。それにより重症者が増えたように見えるだけかもしれない。ただマイコプラズマにとても良く似た臨床所見だからとマクロライドを投与してよくなっているように見えることもたくさんある。今日の報告でもやはり何も使用しないよりマクロライドを使った方が3〜4日症状の消失は早いようだ。うん?たったそれだけか。やはりなにもしなくても良くなるのだ。

 肺炎で苦しむ人たちは割合としてはとても少ないが、確かに存在する。では彼らに何をしてあげればよいか。ミノマイシンという商品名のミノサイクリンを使ってよくなる人もいる。しかし低酸素や多呼吸をきたしている人はこれでは良くならない人もいる。ではなにが起こっているか?それは身体の過剰な免疫応答なのだ。病原体に人体が負けているのではない、対応が過剰になりすぎて自らの身体を痛めているのだ。これは推測ではない。動物実験でちゃんと報告されているし、実際の臨床の場面でも過剰な免疫応答の証拠が揃っている。発熱など遷延している人に免疫応答を鎮める効果のあるステロイドを使うとあっという間に改善してしまう。

 そんなことになる前にミノサイクリンを使おうって?大人はそうしたかったらどうぞ。でも永久歯の生え揃っていない年少児たちは止した方が良い。気がついたら黒ずんだ歯に悩むことになりかねない。またミノサイクリンは他にも様々な重篤な感染症に対応できる素晴らしい抗菌剤だ。マイコプラズマには耐性が出来ないらしいが、それを多用することで他の感染症に対応できなくなる可能性だってある。それは本当によいことなのだろうか。他にニューキノロンという抗菌剤の種類がある。オゼックスという商品名だが、これもマイコプラズマに効くと言われている。でも言うほど切れ味は良くないらしい。使った事がないし、使うつもりもないが、報告ではそうなっている。ニューキノロンは関節に問題を起こす可能性があるので、これまで小児では使われてこなかった。動物実験では関節障害が出ていることなどからも使う気にはならない。おまけにこの系統は様々な耐性菌を増やしてしまう事など目に見えている薬である。どうしてもこれしか駄目という時にとっておくべき薬だ。マクロライドとてジスロマックという少ない回数で長期間効く薬を使い始めてから耐性が進んだように思う。

 昨日2歳の女の子が急病診療所へ連れてこられた。マイコプラズマ肺炎と診断され、ミノサイクリンを1週間飲んだが良くならず、マクロライドを1週間使ってようやく解熱したが咳が治まりきらないのだという。来院時は咳もなく、呼吸音も正常でおだやかだった。本当にマイコプラズマ感染だったとするとおそらく自然経過でよくなったのだろうが、ミノサイクリンの副作用について説明する気にはならなかった。すべての人の永久歯に影響が出る訳ではない。明眸皓歯、可愛いまま大きくなってくれるよう願いをかけながら、もう大丈夫、しばらく気道の過敏が残るだけだからとお話しして返した。

 病気に対し、なにより身体を休ませるという基本がなされず、直ぐに実社会へ復帰させるという経済効果というか対費用効果というか、そんなものに左右されているのではないだろうか。するととんでもないところへ行ってしまいそうな気がするのだ。

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コメント

先生おはようございます。
早速ですが 弟の緊急手術は父によると 「卵大の浮腫が出来たため取り除く必要があったため」 だそうです。
手術後 観察室(ICUのことでしょうか?)に2日くらい入って 今は一般病棟にいるとの事です。浮腫をすべて取りきれたかどうか 経過を観ている状態だそうです。
本人はまったく食欲もなく ベッドに縛り付けられている様子です。
会話はできているので 一安心ですが。。。
取り急ぎ ご報告まで。m(_ _)m

投稿: バリスタUSA | 2012年9月29日 (土) 07時52分

先生 こんにちは。
早速ですが 弟の診断書は 左ソケイブ(というのでしょうか?)リンパ節腫服 リンパ浮腫及び 左ソケイブホウコウセン炎(医学漢字は難しいですね。。。)でした。足のほうは壊死に陥ったため切除したとあります。抗血剤というものを与えられているようです。2ヶ月の入院治療が必要となっています。今は 肺に水がたまってきたので 肺の先生にもかかるそうです。薬の副作用で 白血病発症の可能性もありますと 診断説明書にありました。思ったよりも 大事のようで心配しています。ただ 今月中ごろには会えるので その時に再度私のほうでも主治医の先生の説明を伺えたらと思います。取り急ぎ ご報告まで。。。

投稿: バリスタUSA | 2012年10月 2日 (火) 12時42分

バリスタUSAさん

 かなり大変な状況ですね。よくよく主治医とご相談なさってください。

 悪い細菌が入ってしまったのでしょうね。蜂窩織炎(ほうかしきえん)で抗菌剤と抗凝固剤を使用していらっしゃるのでしょうか。

 感染症は昔の病気ではなく、今も人を苦しめています。地球上に生きている限りそれは変わることがないでしょう。私には頑張って下さいとしか言えません。お祈りしています。

投稿: クーデルムーデル | 2012年10月 2日 (火) 16時09分

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