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2008年6月24日 (火)

やはりアッペに始まりアッペに終わる

 虫垂炎は本当によく遭遇する病気であるが、この診断を正確に言い当てる事ほど難しいことはないと言われる。

 今日はまさにそんな気分。

 うちによく来るスペイン語しか話せないお母さんが連れてきたのは15歳初診の女の子。実は親子ではなく叔母と姪の関係らしいが、自分の子供が私の外来へかかるついでに連れてきたとのこと。聞けば一昨日、いつもは食べない弁当屋で買ってきた弁当を食べてから気分が悪くなったらしい。その後嘔吐と水様下痢が立て続けに起こり、その日の夜には39℃の発熱も来した。昨日1日我慢したところ下痢は止まったが食欲がわかず、熱も下がらないため来院したらしい。あの弁当が悪かったのだとしきりにその娘さんはこぼしていた。なんだ、日本語を話せるのかと尋ねると、日本の高校に通っているとのこと。じゃあ話は早いとさっそく診察にとりかかった。

 視診/聴診ときて触診になったところで急におとなしくなってしまい、一言も話してくれなくなった。腹部を看護師立ち会いのもと触診していくがうんともすんとも言ってくれない。下腹部に痛みがありそうだが、左右差はなく、defenseもないがreboundはなんとなくありそう。しかし右でも左でも側臥位で痛みが出る様子。立たせて足踏みさせると躊躇する?背中を向けさせ腰をたたくと左にCVA tenderness陽性。はて?と首を傾げながら叔母を見ると、なにやらスペイン語で話し始めた。しかしちんぷんかんぷんでおまけに日本語で言い直してもくれない。

 本来子供の診察なら患児の言葉はそれほど重要ではない。自分の目と耳と手の感覚で診断するよう心掛けてはいるが、皮下脂肪も厚くなった思春期の女の子ほどわかりにくいものはない。自ら訴えてくれればよいのだが、それは望めそうもない状況であった。

 とりあえず状況証拠からはアッペ(急性虫垂炎)よりもむしろ腸炎。しかし腎盂腎炎でもありえる。時は午後3時。午後外来には予約も含め大勢が押し掛けてごった返している。外科に相談するなら時間が多く残っているわけではない。さて・・・・患児はもう随分待って疲れた、早く帰りたいと言い始めた。今日はスープも飲めたし、痛みは我慢できるという。このまま明日まで待っていいよというフレーズがのどまで出かかって止めた。まぁ待ちなさい。なんとなくこのまま返すのはいやな気分だった。

 とりあえずレントゲンと採血/検尿をオーダーした。結果が出る前に出来るだけ他の患者さんを診てしまおうと猛スピードでこなした。レントゲンが帰ってくる。大腸ガスは多量で、ほんのわずかに小腸ガスがある程度だった。右下腹部にガスが集中するわけでもない。横目でレントゲンを診ながら目の前の患者さんたちをさばいていく。末梢血は白血球が13000か・・・なんでもありだ。このまま他の値が出るまで待っていられない。入院して精査してもらおう。エコーだけでもしたいが・・・ええいっ、時間がない!

 スペイン語のできるクラーク(医療事務)さんを呼び寄せ、入院を勧める。しかし患児は嫌だと涙をこぼし始める。叔母はなかなか首を縦に振らない。なんとか説き伏せ病棟に向かわせると病棟は緊急入院でごった返していた。病棟番の医師がてんてこ舞いで、本患児をすぐに診られる状況ではなかった。仕方なく予約の患者さんたちに頭を下げ、病棟へエコーを担いで駆けつけた。

 腹水だ。ダグラスにもモリソンにもうっすらとある。ならばC-CUMには・・・とそこでCRP 10という値情報が飛び込んできた。画面に映し出された索状物は、径25mmもあった。こりゃまずい!緊急オペしないと破裂する!!

 午後8時、患児の見事に赤く膨れあがった虫垂が取り出された。中にはすももの種ほどの糞石が存在した。明日まで延ばしていたら命の問題にもなっていたかもしれない。

 ふ~~~っ。

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コメント

お見事!

後ろに回りこんでました??

投稿: いなか小児科医 | 2008年6月24日 (火) 10時52分

こういうお話には救われます。
患者にとって医者は神様だから。。。
叔母も 医者を見直しただろう ね。


         sun

投稿: 犬と猿 | 2008年6月24日 (火) 15時46分

ごくろうさまです!

殆どの臨床小児科医が一度は味わう状況でしょうねえ。
わかるわかる!
夜中に外科を呼び出すとき、平身低頭で(診断間違ってたらどうしよう等々)頼んで、自分が間違ってなかった時の感じを思い出しましたよ〜。

腹痛は、いちばんいやですねえ。ほんと。

投稿: snori | 2008年6月24日 (火) 16時31分

天晴れ!

投稿: Diabo com Fome | 2008年6月24日 (火) 21時05分

いなか小児科医さん

 そうですね。しかし回り込んだ後先端は正中やや深めの所に顔を出していました。周囲に炎症の波及があって、汚い腹水が貯まってました。完全に破れていたわけではないのですが。

投稿: クーデルムーデル | 2008年6月25日 (水) 08時20分

犬と猿さん

 どうなんでしょう。終わった後もよく意思の疎通がはかれず、結局原因はなんなのばかり叫んでいました。誰でも起こること、これといった原因などないことなどお話ししても通じません・・・

投稿: クーデルムーデル | 2008年6月25日 (水) 08時22分

snoriさん

 もうちょっと年齢がいくと余計に嫌ですね。婦人科的疾患が絡むと・・・

 でもこの児はエコーでバッチリだったので、外科には割と楽に渡せました。

投稿: クーデルムーデル | 2008年6月25日 (水) 08時25分

Diabo com Fomeさん

 この児にはちょっとまいりました。

 でも先生にそう言って頂けてうれしいです。

投稿: クーデルムーデル | 2008年6月25日 (水) 08時26分

まるで ER を地で行くようなお話、読みながらどきどきしました。
 
私も3日前から左上腹部から下腹部にかけて痛みが続いているので、ひょっとして?と思ってググったら、虫垂炎って右なんですね。知りませんでした。
  
だったら、この痛みはなんなんだろう???左の肋骨の数センチ下、側腹部を押すと痛くて、そこから下がずーっと痛いんですよね・・・。あ、便通は普通です。

投稿: ポリ | 2008年6月28日 (土) 08時15分

ポリさん

 虫好きのポリさんですから虫でもよいかも・・・

 ちょっとだけ冗談ですが、痛みの種類にもよります。ずっととおっしゃいますが、同じ痛みが四六時中続きますか?数分で治まるものですか、時々ならば空腹時ですか、食べている途中ですか、痛みは刺すような痛みですか、重いですか、背中を叩くと響きますか?

 いろいろお尋ねしたいところです。ここまでで心配になりましたら、どうぞ診察にお越し下さい。

投稿: クーデルムーデル | 2008年6月28日 (土) 08時32分

本物のお医者さんにブログのコメント欄で健康相談するなどという失礼なことをしても、こうして対応してくださる、そういうところが、私、クーデルムーデルさんを心から尊敬している理由です。
 
>虫好きのポリさんですから虫でもよいかも
 
ここは「おい (-_-# 」と突っ込みましたが。
 
>どうぞ診察にお越し下さい
 
ここも「おい (-_-## 」と突っ込みましたが。
 

調子に乗ってもう少し続けますと、痛みはかなり鋭い痛みです。四六時中続いていますが、体を曲げたりすると、痛みは強まります。背中を叩いても、響いたりはしません。食事とは関係ないようなので、普通に食べています。
 
先週献血したら、総コレステロール量が 269 mg/dl といわれて思わずのけぞってしまったし(善玉と悪玉は調べてくれない)、そろそろ検査にでも行こうかな・・・

投稿: ポリ | 2008年6月28日 (土) 10時58分

ポリさん

 見てもいないし触ってもいないものを判断するのはどだい無理な話なのですが、そういった痛みならば腸管の問題ではなさそうですね。きっとおおきなう○こもお出しになってることと思いますし。

 しかも3日ほど経っても下痢や発熱はしていなさそうですよね、ということは感染症でもなさそうです。胆石はさすがに左ではないし、、、おしっこはワインレッド・コカコーラ・ウーロン茶などの色になってませんか?ちなみに中性脂肪は?

投稿: クーデルムーデル | 2008年6月28日 (土) 19時21分

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