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2008年5月20日 (火)

何もできやしない

 青森時代にお世話になった『山の師匠』が病に倒れた。

 師匠は奥さんの病気もあり、友人の薦めで埼玉県越谷市に移り住んでいた。ある会社の寮のまかないとして奥さんと二人で住み込んでいたのだ。奥さんのこともあり仕方のないこととは思っていたが、山の霊気で生きているような人だったので、体調を崩さなければよいがと思っていたところだった。

 以前から胆石を患っていたので、時々痛むことはあったらしい。しかし半年前に食欲不振となり、その後黄疸が出てきた。近くの医者では対応できず、大学病院へ行けと言われ、精査したらすぐに手術すべきと言われたらしい。どうするべきかと相談を受け、連休中に一度顔を見に行った。顔色はさほど悪くはないが、眼球には黄疸が出ていた。大学の医者の話では、胆管に出来物があり、そのせいで食欲が落ち、黄疸が出ているので、これを取りましょうということらしい。親類でもないため、詳しく医者から話を聞くわけにもいかず、しっかり治療を受けるよう数時間話して別れた。

 一昨日電話が鳴り、師匠の息子さんから、胃と腸を繋ぐ手術は終わったが、胆管癌で腹膜にも播種しているから根治術は出来ないとの話を聞かされた。どこかで何かできないのか、出来ないなら青森に連れて帰った方がよいかどうかと尋ねられた。

 癌センターで働く友人に問い合わせてみることを約束したが、状況は難しいところにあること、そして青森に連れて帰るべきことを話した。ここにいても望みは薄い。山の空気なら何かが変わるかもしれない。およそ非科学的なことだが、それしか私には浮かばなかった。

 連休中に師匠とは病気の話をした。しかしそれ以上に、九十九里浜の砂地に生えるキシメジタケをいつ採りに行こうかという話で盛り上がっていた。その話をする師匠の目はとても病魔に冒されている人の目ではなかった。だからこそ、少しでも食べられるようになれば、山へ一緒に行き、キノコや山菜を山のように採って、それを食べてもらいたい。それがなによりの治療に思えるのだ。

 残された時間は少ない。週末にでも相談に行かなくてはならないだろう。でも気付いているだろうが、師匠に手術は無理だと告げるのは難しい。難しいな・・・・

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コメント

部外者ながら心が痛いお話で切ないです。

非科学的ながら、私も患者さんの望む環境で余命が伸びたという話を聞いたことがあります。


状況としては厳しそうですが、どうかご本人とご家族にとって最善の道が見つかりますように。


投稿: ゆき | 2008年5月20日 (火) 18時17分

ゆきさん

 結局なにも出来ないのです。

 恩師の時も、師匠にも。

投稿: クーデルムーデル | 2008年5月21日 (水) 12時39分

でも,祈ることは出来るよね.それは無駄な事じゃない.
奇跡ってのはめったに起こる事じゃないけど,科学なんて関係なく,信じたい気持ちになれるのも人間のすばらしい所だと思う.
そして,信じない限りはその奇跡も起こらないんだろうなと.
何より,自分の大事な人の生き様をしっかりと見守る事が一番大切なはずだよね.

今更,先生に向かって言うような事じゃないけどさ.
今という時間のためにも祈りましょう.

投稿: Diabo com Fome | 2008年5月23日 (金) 10時29分

Diabo com Fomeさん

 これから当直なんで、明けて明日会いに行ってきます。

 生き様、見届けます。

投稿: クーデルムーデル | 2008年5月23日 (金) 18時05分

でしゃばりでしたね.
道中くれぐれも気をつけて.

投稿: Diabo com Fome | 2008年5月23日 (金) 22時48分

医師である我々にとって、もっとも辛い状況ですね...。
医師は所詮、人間。ということを思い知らされます。

少なくとも、残りの人生が『師匠』にとって有意義であるものでありますように...。

投稿: いなか小児科医 | 2008年5月24日 (土) 00時54分

Diabo com Fomeさん

 いいえ、先生の言葉はしっかりと身に染みました。ありがとうございました。

投稿: クーデルムーデル | 2008年5月24日 (土) 07時11分

いなか小児科医さん

 所詮運命を変えることなど出来ないただの人間ということです。

 当直で喘息の大発作の児を連れ帰ったので、処置が終わり次第行ってきます。

投稿: クーデルムーデル | 2008年5月24日 (土) 07時13分

釈迦に説法は承知の上で。
 
学生の頃、お世話になった先輩にお礼を言ったところ、「大したことはしていないが」という前置きの後、
 
「もし俺に世話になったと思うなら、お前も後輩の面倒を見てやればいい」
 
と言われました。直接返すばかりが御恩返しではない、と。
 
クーデルムーデルさんはたくさんの子供の命を預かっていますよね。
 
何もできやしない、なんて言わないでください。
 
 
キノコ採りに一緒に行けることを祈っております。
 

投稿: ポリ | 2008年5月25日 (日) 17時34分

ポリさん

 大切な人を亡くすたびに自分の無力さを痛感します。

 そして今また、手を握るしか出来ない自分を見ました。

 コメント、ありがとうございます。

 とにかく関われること、全部やってみます。

投稿: クーデルムーデル | 2008年5月27日 (火) 08時46分

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