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2007年11月24日 (土)

鬼畜米英という空気

 昭和一桁生まれの父が生前に話してくれたことを覚えている。それは戦争に突入する前の兵隊さんへのあこがれ、陸軍兵学校を優秀な成績で卒業し軍馬に乗って凱旋した長兄のこと、毎日ラジオから流れる戦績を聞きながら胸を躍らせたこと、神戸の街で空襲にあい目の前で友達が死んでいったこと、疎開先でとんでもなくいじめられたこと、そして鬼畜米英など上陸してくれば皆残酷なまでに嬲り殺されると聞いていたのに白旗を挙げた後やってきたのは子供達にチョコをくれるジープに乗った白い大男達だったということ・・・必死でgive me chocolate !と叫びながら、鬼畜と呼んでいた人達にチョコをねだる自分がよくわからなかったと回顧していた。

 小学校高学年だった父の回想が本当に正しい歴史を表しているとは言わない。しかし戦時中の日本では子供ですら敵国が上陸すれば、蹂躙されると意識していたのは事実であろう。今まさに陥落しようとする日本のあちこちで、自ら死を選ぼうとした人達がいたと想像することなど難しいことではない。軍の命令があろうがなかろうがである。

 自爆したのは軍の命令だったのに教科書にそう記述しないのはおかしいと、先日沖縄に2万人が集結して非難決議を行っていた。自分たちのおじい・おばあが嘘を言っていたというのかと訴えていた高校生の言葉が印象的だった。おそらく軍人にそう言われた人もいたのだろう。しかしパニックになれば上記の空気が蔓延していた日本で誰がどうミスリードしたのかなど判ったことではない。軍人はまず間違いなく殺されることを覚悟しただろう。それならば自ら命を絶とうとしたはずである。自分たちにも自害できる薬なり爆弾なり分けてくれと言った民間人もいただろう。一方で死ぬなんていやだが、米英に嬲られるのもいやだともがき続けた人もいただろう。

 軍の命令はあったのか、それともなかったのか。ある裁判がその後行われた。それは大江氏が記述した沖縄ノート裁判である。沖縄ノートの記述を名誉毀損と訴えていた座間味と渡嘉敷の守備隊長の言い分と沖縄ノートを書いた大江氏の言い分を新聞で見聞きした。どちらが嘘を言っているのかなど判断のしようはないだろう。しかし軍の命令そのものはどこにも見当たらないのは事実である。そして軍の命令により死亡したものには厚生省から見舞金が支給されるため島民に懇願されて守備隊長は軍命があったと話してきたと法廷で証言している。この隊長達は島民達は自爆したいから手榴弾をくれと言ってきたが、それを思いとどまるよう説得したというのだ。これまでは島民の利益のために、自らが全国から罵倒されようとも我慢してきたが、このままでは死んでも死にきれないと名誉回復を求めているのだ。

 まだ戦争は終わっていないという人達がいる。戦争を終わらせるために軍の責任を明確にしたいという人達がいる。しかし感情論で戦争を裁こうとしても意味はない。狂気の時は実在し、軍だけで戦争をしたわけではなく、皆が狂気に舞い上がっていたのだから。

 残された我々にできることは、狂気の時代を繰り返させないようにどうするべきか考えることではないか。世界には悲しいほど利己的な国が多く存在する。彼らを前にして我々はどうするべきなのかを。

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コメント

自分の国で起きたことなのに、戦争について私が知っていることはほとんどありません。

軍側、政府側(本音を言えないトップの人間ではなく、中間管理職の人たち)の言葉も、もう少し聞いてみたいです。

投稿: ポリ | 2007年11月25日 (日) 18時06分

ポリさん

 あえて知ろうとしない限り、学校で昭和以降の現代史を教えてはくれませんから無理はありません。教えようとしてくれる先生は過剰なまでに反戦・反国家・反国旗を訴える方が多いので、教えられない方がましということもありますが。

 たかが新聞、されど新聞。いろんな新聞を読むと真実が垣間見えてきます。(一つではいけません!!)そこから文献を当たってみるのが早いと思います。

投稿: クーデルムーデル | 2007年11月26日 (月) 08時52分

去年から 今年も 文芸春秋や中央公論などに第二次大戦を俯瞰した記事が沢山あります。
昭和を総括する大論文ですが 21世紀を展望する貴重な資料である事は間違いない。

世界的な背景を理解しないといけないが
明治憲法や統帥権などに問題があったようです。大政翼賛会なども。

軽率な発言は控えます。

投稿: 犬と猿 | 2007年11月26日 (月) 18時32分

犬と猿さん

 戦争犯罪が裁判として成り立ち始めたのはこの100年でしかありません。それまでは強者の論理だけがまかり通り、すべて敗戦国が悪いとなっていました。

 本当にそうなのか?それが判断できるのはずっと先のことかもしれません。

投稿: クーデルムーデル | 2007年11月27日 (火) 17時00分

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