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2007年5月10日 (木)

総合診療

 医学教育が臓器別専門家育成を目指してきたことは周知の事実であろう。高度先進的医療を行う上では専門分化は欠かせず、その道のスペシャリストが養成され、大変な功績を挙げてきた。

 その反動とも言うべきであろうか、全人的に患者さんを判断し、しかるべき処置を行い、必要であれば専門家へ紹介する総合診療を行う医者が求められているようだ。かかりつけ医とか家庭医とかgeneral practitionerなどと呼ばれる彼らを持ちましょうと政府が指導し、患者さんもそれを望んでいるとのことである。裏に潜むアメリカ医療制度と外資保険屋の謀略が見え隠れするので多分にうさんくさいのではあるが、理屈としては理解できなくもない。

 いつでも気軽に相談できる医者がいれば心強いというのは当たり前であろう。それはどんな事柄にも当てはまる。信頼できる八百屋・魚屋がいれば心強いし、フィナンシャルプランナーもいた方が老後が安心ということも言えるだろう。世の中どこを向いても情報があふれ、自分で取捨選択するのが難しいのでお抱え専門家がいればそれに越したことはない。

 医者側も総合診療という言葉には大いに興味を抱いている。若い医者は特にgeneralistという言葉に憧れ、なんでも診られる医者になりたいと思うものである。しかしすべてにおいて一流を目指せるほど現代医療は甘くはない。結局その道のプロの言葉を遮るだけの力がないことに愕然とし、総合診療を諦め専門家への道へ進むか、なんとなく総合診療を続けるかということになる。看取るという行為が自然発生するのであれば、総合臨床医も悪くないかもしれない。(もちろん本気で頑張る人もいるだろうが。)しかし今はなんとか最高の医療を施してほしいと大多数が願っている時代である。そこに総合臨床医の出番はない。患者の振り分けだけで満足できるような医者は数えるほどしかいないのだ。

 しかもどれだけ努力しても結果が悪ければ訴えられてしまう時代である。専門的知識と技量の有無が問われ、総合臨床医といえども専門家としての技量が要求されている。それはハッキリ言って出来ない相談だ。非常に優秀な総合臨床医でも専門家からすれば、こうした方が良かったと言われるテクニックが必ずあるものだ。それが現代の高度に発展した医療なのだ。

 それよりも一流の専門家を見て欲しい。彼らの努力は並大抵の事ではない。その努力により自分の専門分野は当然だが、それに付随する様々な事象を的確に判断する技術も手に入れる事になる。彼らは総合診療を目指した医者より数段高いところで総合的に判断ができる医術を身につけているものだ。そして謙虚さも持ち合わせているため、専門家へのコンサルトを惜しむ事は無い。

 おそらくこれを総合診療を目指すないしはそれをなりわいにしている医者が読めば、こういった考えの輩がいるから総合臨床医の地位がいつまでたってもあがらないのだと憤慨する事であろう。確かにこういったことは医者が決めつける事ではない。患者さんが気持ちのよい方を選べばよい。ただ患者さんも間違ってほしくないのは、病気に対する不安など話を聞いてくれる医者が欲しいのであれば、それイコール総合診療ではなく、心療内科へ行くべきなのだ。病気についての説明や治療の説明を懇切丁寧にすることはどの医者にも求められるべきものではあるが、日常生活の不安などを延々30分以上に渡って聞いていられる医者は日本にはいない。唯一心療内科のみこれが可能である。

 ということで総合診療は理想的ではあるが、現実的ではない机上の空論であると私は思うのである。もっとも小児科医は皆generalistを夢見てなったに相違なく、今も子供の出生から成長発達、社会人へ巣立っていくところまで楽しみながらフォローアップを続けている。しかし私は後輩達に小児科医であっても臓器専門家への道を薦めていることも事実なのである。

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コメント

こんにちわ(^^♪
総合医。。大学でも、総診がうまく機能しているとは思えないのですが。。。(ーー;)

でも、 かかりつけ医という存在は悪くないとは思います。気軽になんでも相談できるお医者さんって、心強いと思うので。
ただ、そういった総合医に対して、政府はどのくらいのお金の保証をしてくれるのでしょうか?紹介するだけでは、お金にならないのは当たり前で、なんとなく、そういう面で政府にとったら医療費削減の隠れ蓑みたいな気がします。
総合医をつくることには反対しませんが、強力に推進しようとする政府には、疑問を感じてしまいます。。総合医をたくさん作って、僻地へ飛ばして、なんでもかんでもやらせようという感じもするのですが。。

投稿: doradora | 2007年5月10日 (木) 20時38分

実際に総合臨床医制度を運用しているアメリカで暮らしている立場からすると、かかりつけ医に多くを求めるのは難しいと思います。

クーデルムーデルさんがおっしゃるように、広く浅い技量が求められるかかりつけ医は、専門医としての技量はどうしても弱くなるので、結局風邪薬の処方箋係、あるいは専門医への窓口として機能することになってしまう傾向があります。一人の医師が多くの患者を担当するので、予約が一杯で、とても気軽に相談なんてできません。日本にいたときの近所の小児科医の方が、はるかに気軽に行けました。

利点は、気軽に行けないので、医者に行く機会が激減することです (^o^)

初コメントしてみました m(_ _)m

投稿: ポリ | 2007年5月11日 (金) 16時21分

doradoraさん

 皆が住みたいところではないから僻地になるのですよね。総合医を作ったから僻地も潤うなんていうのは妄想でしかありません。そこに公権力で縛り付けようとするなら、人権蹂躙です。

>総合医。。大学でも、総診がうまく機能しているとは思えないのですが。。。

やはりそうですか。大学で求められる医療ではないと思うので、研修も大学ではなく一般病院になるのではないでしょうか。

投稿: クーデルムーデル | 2007年5月11日 (金) 17時21分

ポリさん

 いつもウィットに富んだ記事を読ませて頂いてます。

 本場アメリカの事情を教えて頂きありがとうございました。やはり無理があるのでしょうね。それにしても利点・・・笑いました。

投稿: クーデルムーデル | 2007年5月11日 (金) 17時24分

クーデルムーデル様
御意です。軽症の中に潜む重症(地雷)を見分ける嗅覚というのは結局、「一見軽症→重症化→苦労して治療→治癒(あるいは不幸な転帰)」という全過程を自ら数多く経験しないと身に付かないものです。これはやはりその専門科に長年在籍しないと無理でしょう。総合医のように振り分けの段階だけを幾ら経験しても無理だと思います。

>それよりも一流の専門家を見て欲しい。彼らの努力は並大抵の事ではない。その努力により自分の専門分野は当然だが、それに付随する様々な事象を的確に判断する技術も手に入れる事になる。彼らは総合診療を目指した医者より数段高いところで総合的に判断ができる医術を身につけているものだ。そして謙虚さも持ち合わせているため、専門家へのコンサルトを惜しむ事は無い。

まさにそのとおり!!「一芸に秀でるものは・・・」なのです。

私の在籍していた大学病院でも総合診療科はなんだか中途半端なものでした。私が今まで見た総合診療医を分類すると

1)理想の医療に燃えて張り切るタイプ(でも何となく実を伴ってなくて周囲が疲れさせられる)
2)凄く優秀だけど総合診療科のシステムが悪いため(あるいは地位が低いため)能力を無駄に消費させられているように見えるタイプ

2)のタイプは自治医大出身の若い先生に多かったです。自治医大出身の先生は優秀な人が多いように感じるのですが、「ああこの人は総合診療なんかしないで専門科に属したらどんな良い医者になるだろう」と良く感じたものです。

投稿: 蛸介 | 2007年5月12日 (土) 21時15分

蛸介さん

 コメントありがとうございます。

 賛同していただけたようで心強いです。医療者用掲示板サイトでは若い医師達が総合医を希望し、総合科の新設は彼らにとって渡りに船だという情報がありました。意識として臓器別に限らず診ていきたいという気持は絶対にあるべき姿なのですが、総合にこだわると先はないと思うのです。

 それと伝え忘れたのでここに書かせて頂きますが、専門家としての道を進み、ある程度で開業された先生方は立派な専門医であり総合医であると思っています。なにしろ時間のない中で、データもなく、臨床所見のみをもって一人で判断する開業医の心労は大変なものだと理解しております。それを踏みにじるような今回の厚生労働省のお達しはあまりにひどいと思うばかりです。

投稿: クーデルムーデル | 2007年5月13日 (日) 11時07分

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