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2007年1月30日 (火)

ネフローゼ症候群

 外来の記事のところでご質問があったので、その返答も兼ね、疾患についてコメントします。

 この疾患のバックグラウンドに関しては、いなか小児科医さんのブログ9月分に詳しく書かれているのでそちらをご覧いただき、こちらでは疾患の要点・治療・気を付けるポイントについてお話しします。

 ネフローゼ症候群は尿の中に蛋白が漏れだしてしまい、血管の中の必要な蛋白が失われる状態を言います。その原因は様々ですが、おおまかに考えて、腎臓の中のフィルターの異常によるものと考えて良いです。これにより血管の中の浸透圧(濃度みたいなもの)が低下し、より圧の高い他の細胞の中に水分を取られてしまうのです。すると血管の中の水分が失われ、血圧が低下し、血流も悪くなります。また成因はよくわかっていませんが高脂血症も伴い、これらにより血管閉塞を来すこともあります。問題は力学的な問題だけに留まらず、蛋白の漏出は必要な免疫力の喪失にも繋がります。ステロイド療法などネフローゼの治療が確立される前は、免疫力の低下から細菌による敗血症を来たし、亡くなる人もたくさんいました。

 幸いなことに子供のネフローゼ症候群ではステロイドが非常に良く効き、蛋白の漏出を止め、水分も血管の中にゆっくりと戻ってきます。ただし良く効くのは8割の患児で、あとの2割は効きません。この効かないタイプはフィルターの異常が特殊であることが多く、別の治療法を選択する他ありません。また効くタイプでもステロイドを減量ないしは止めると再発してくる場合があります。初発時に治療を開始後半年間に2回以上再発、または任意の1年間に4回以上再発する場合、頻回再発型と診断しますが、この場合ステロイドを使い続けなくてはならず、ステロイドの副作用に悩まされることになってしまいます。これを避けるために、免疫抑制剤などの薬を併用するなどの治療が行われています。

 ここからは気を付けるポイントをお話しします。

 まず血管の中の脱水が起こるとお話ししました。これは腸の中でも同じ事が起こり、血管から腸の細胞の中に水分が取られていくと、腸の細胞は腸管の中を流れる食物残査中の水分を吸収するという働きが制限されることになります。よってネフローゼが酷くなると下痢を起こしてしまうことがあります。すると益々血管の中に入るべき水分が少なくなってしまうという悪循環に陥ります。私は患者さんに浮腫そのものであわてる必要はないが、下痢になるならすぐに来院するよう指導しています。それは血管内脱水が酷くなり、血圧低下を招くサインだからです。この場合、点滴で水分を補給したり、アルブミンという蛋白を補充したりします。

 水がたまっていくのは身体の細胞や腸だけではありません。お腹の中には腸の外に大きなスペースがあり、ここに腹水としてたまります。また肺にも水がたまります。息苦しいなどの症状で気付かれる肺水腫という状況もあります。ネフローゼの場合の肺水腫はよほど酷くならない限り症状として現れることがありませんし、アルブミンという蛋白を補充すること以上の治療が必要となることも少ないですが、時には血液透析などで水を除去することもあります。

 もうひとつは発熱です。ネフローゼだけでも免疫力は低下します。それに加えてステロイドも免疫抑制剤も免疫力を低下させます。特にお腹を痛がる場合は要注意で、腹水中に繁殖する細菌による腹膜炎を鑑別する必要があります。またステロイドを減量中に発熱した場合、身体に必要な量のステロイドが補給されないことによる変調を来すこともあります。実はステロイドは自分の身体で毎日産生されており、外から与えられると身体がさぼって産生しなくなる性質があります。ステロイドはもともと身体のバランスを整える働きがありますから、これを崩すことになってしまうのです。ですから発熱を来した場合は、治療量とは違った必要なステロイド量を内服することもしばしばあります。

 その他は急を要するものではありませんが、腎臓専門の医師でない場合に間違った伝え方がされている場合があるので、お話しします。

 まず再発はある程度仕方ないと思ってください。再発を恐れるあまりにステロイドをある程度の量で使い続けるのは副作用をおこすもとになります。半年以上途切れることなしに毎日または一日おきにステロイドを内服しているというネフローゼの患者さんがいらっしゃるなら、腎臓の専門の医師へ相談することをお薦めします。ただし急に止めることはしないでください。前述したように身体に必要なステロイドが保てなくなることがありますので、必ず医師に相談して決めて下さい。

 また浮腫がある場合に安静にする必要はありません。もちろん動きづらいのを無理にというわけではないですが、必ず入院する必要はありません。ただしネフローゼ発症初回の場合は、ステロイドの副作用の発現などいろいろ調べるポイントがありますので、入院加療が必要です。下痢などで脱水が酷い場合も入院が必要です。

 浮腫があると水分制限をしたくなりますが、それも誤りです。のどが渇くのは血管内脱水のサインの一つです。飲み水を制限する必要はないのです。ただし飲めば確実に浮腫は増えますが血圧低下を招くより遙に有益です。がぶ飲みはダメですが、のどの渇きを潤すのは必要と思って下さい。塩分は少々控えましょう。益々浮腫がひどくなり、しかも脱水となりますからご注意を。

 それからステロイドを使用中に運動を禁止することも必要のないことです。長期に使用すると骨がどうしてももろくなりますが、学校で行われる体育程度なら十分に可能です。ただし格闘技やマラソン、オリンピックに出るために身体を鍛え上げる必要があるなどの場合はよくよく主治医とご相談下さい。

 細々としたことはまだいろいろとありますが、ご相談いただければお話し致します。

 子供にとって必要なのは治療はもちろんですが、成長発達もそれと同等以上に必要なものです。知育も体育も食育も社会教育も必要です。ネフローゼは長いつき合いになりますから、腎臓の専門医とよりよい関係を作って一緒に子供達の健全な成長を見守りましょう。

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コメント

コピーして、保存しときますね。
腎臓疾患はなかなか治らないので辛いです。

投稿: やぶ | 2007年1月30日 (火) 14時44分

やぶ先生

 ご存じの通り、大人と子供の腎疾患では成因も治療も予後も違います。子供の腎疾患ってもちろん疾患にも寄りますが、良くなることが多いですよ。でも将来的に腎不全に陥って結局内科や泌尿器科の先生にお世話になることもしばしばですが。

投稿: クーデルムーデル | 2007年1月31日 (水) 08時24分

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