« 慌ただしい | トップページ | 男性用香水 »

2006年12月26日 (火)

テオフィリン内服

 テオフィリンという薬とこれを処方する医者がマスコミから集中砲火を浴びている。あまりにも一方的すぎ、一般診療にとっても患者さんにとってもマイナス因子が多すぎるのでコメントすることにした。

 テオフィリンは気管支を広げ、気道の炎症を抑える効果があるとして数十年前から使われている薬剤である。効果は非常に高く、気管支喘息患者さんの発作時に使用し、劇的な改善をもたらしてくれる薬剤である。特に気管支拡張剤が他になかった時代はこれに頼るほかなかったほどの薬剤で、その使用法については細かく指導され、日本の医師たちはこれを使いこなしてきた経緯がある。もちろんどんな薬にも副作用はあり、特にこのテオフィリンは血中濃度を逸脱すると命に関わることになりかねないので、医学生の時からよくよく教わる薬剤の一つなのである。

 昨今問題となっているのはテオフィリンを特に発熱時に使用した場合、血中濃度いかんにかかわらず痙攣を誘発するという副作用報告がなされたことに起因する。それ以来テオフィリンを内服した後起こってきた現象につき様々な憶測と噂が立ち上り、一躍悪者薬剤へ名を連ねることになってしまったのである。

 悪者呼ばわりしているネット情報の根拠はアメリカをはじめとして世界ではテオフィリンが使用されていないということのようだが、これにはれっきとした理由がある。人種が違うのである。よく知られたことだが、白色人種はこのテオフィリンを使用すると少量でも顔面紅潮から始まり心拍の異常や震えなど様々な副作用が起こってくるのである。だから白人はテオフィリンがもともと使えないのである。白人が使用できない薬剤を治療のガイドラインに載せるはずがないではないか。どっこい日本人はこれを何十年も使用してきた経緯が実在するのである。加えて言うならば、日本人ほど真面目に薬をちゃんと服用できる民族はおらず、間違った服用によって副作用を引き起こす可能性が非常に低いこともテオフィリンを使えてこられた理由の一つなのだろうと思っている。それは識字率や民族の単一性にも由来することだろう。

 さらにテオフィリンなど使わなくても他に治療法があるという方がいる。確かに気管支拡張剤で血中濃度を急激に変化させずに使用できるβ刺激剤などの貼り薬や吸入薬が開発され、一定の効果を上げている。しかし即効性を求めるためには、頻回にわたる吸入療法などを受けることになる。するとその副作用がしだいに出現し、心拍異常や不快感などをおこしてしまう。しかもそれだけでは症状改善に十分でないことも経験する。また乳幼児では吸入も器械によらねばならず、この機械購入に2万円弱かかることもネックになっている。またステロイドが万能のようにおっしゃる人もいるが、ステロイド吸入には即効性は期待できない。ネットの上ではテオフィリン処方により病院が潤うなどとバカげたことを平気で載せている方もいるようだが、発作時にテオフィリンをうまく使ってきた日本の医師達をバカにするなと言いたい。

 喘息・アレルギーの日本における学会に参加し、シンポジウムなどで壇上に上がるその道の大家にテオフィリンの使用の有無を尋ねると間違いなく皆使用している。コントロールの悪い患者さん、重積発作の患者さん、皆テオフィリンは欠かせないと口をそろえる。ただし必要のない患者さんもいると答えが返ってくるのがいつものならいだ。私もそれに異論はない。

 ステロイドの吸入がしっかりと出来る、ないしはロイコトリエン拮抗剤の使用と軽い発作時のβ刺激剤の貼り薬や携帯型吸入器だけでコントロールが十分に出来る人は多い。コントロールがうまくいって発作がない方にテオフィリンを処方するのはナンセンス極まりない。めったやたらとすべての喘息患者にテオフィリンの使用をしましょうと言っているのではないのだ。使い方を見定め、適切な管理のもとでおこなえばその効果は折り紙付きだということをもっと知ってもらいたい。

 ここでテオフィリン関連で先日私の外来で起こった失敗例を報告させて頂く。

1 スリランカ人の母親と日本人の父親の間に生まれた2才の男の子。母に喘息の既往があり、最近は発作がないものの現在もステロイドの吸入を行い、コントロールは非常に良好とのことであった。その男の子が喘息発作を初めて起こし来院。母の希望もあり、ステロイドの吸入とβ刺激剤の貼布を開始した。しかし良くならないため入院にてステロイドの点滴とテオフィリン(neophylline 0.6mg/kg/h)点滴を開始した。すると顔面紅潮と手の震えを訴えたため、テオフィリンを中止し気管支拡張剤の持続吸入に変更した。テオフィリンの血中濃度は5μg/mlであった。

2 中国人の母親と日本人の父親の間に生まれた5才の男の子。喘息初回発作にて吸入を施行した後去痰剤と気管支拡張の貼り薬とロイコトリエン拮抗剤を処方し帰宅。しかし翌日再び発作とのことで来院され、吸入後テオフィリンを8mg/kg/day(一日2回分服)数日分のみ処方した。紙に書きながら喘息のメカニズムと薬剤の効き方などを説明し、父親に見てもらうよう言って帰したところ、その後一週間姿を見せず。数週間後再び発作とのことで来院。あの後発作がまたひどくなり、テオフィリンを一日3回飲ませたらよくなったが、眠れないと言い始めたので飲ませるのをやめていたとのこと。

 どちらも最近の日本の事情から起こってきたテオフィリンの失敗例だと思う。前者は人種として白人にはよくないと知ってはいたが、スリランカ人でどうかは思いが及ばなかった。製薬会社の話しではスリランカ人で副反応が強く出るという報告はないとのことではあったが、十分に注意する必要を感じた。後者は口頭でも紙でも説明してもなお服用間違いがおこりうることを実感した。この後もしばしばテオフィリンを使わなくてはコントロールが悪いため使用を度々行っているが、お母さんもうまく対処できるようになった。

 テオフィリンを悪者扱いしているマスコミの方々。学会で推奨される方法をもってしてもうまくいかないでテオフィリンを使う例が多数あることをもっと勉強して欲しい。そして学会の偉い先生方に問いたい。テオフィリンは喘息専門医のところで使用することが望ましいとおっしゃるが、これだけいるテオフィリン使用患者さんがその専門医のところでちゃんと診療できると思っていらっしゃるのであろうか。その数は膨大でとてもまかないきれないのは目に見えている。それもわかっているくせに外面だけでものを言って欲しくないがいかがか。

 少なくとも私は十数年に渡り何十例と毎週喘息患児を診療してきたが、テオフィリンによる痙攣を来した患児を経験したことなどない。学会のガイドラインには敬意を表するが、テオフィリンの使用に関しては持論を曲げるつもりは毛頭ないという小児科医が多いことも明記して欲しい。

|

« 慌ただしい | トップページ | 男性用香水 »

コメント

あらあ・・そんなことになってるのか・・って、それすらよく知らなかったのは恥ずかしいことですね。
呼吸器科の指示通り、普通に処方してました。

薬や医療に何か問題があると、鬼の首を取ったようにそれを声高に批判する記事が受けますからね。
膀胱炎の薬を3日で辞めたために、腎盂炎を併発してとんでもないことになったとテレビ番組で放送されましたが、ガイドラインでは膀胱炎の治療は3日が標準なんです。
もういい加減に、不必要に危機を煽るのも辞めた方がいいと思うのですが・・。

投稿: やぶ | 2006年12月26日 (火) 17時57分

テオフィリンの副作用については今日の外来だけで何回も説明しましたよ。
テレビを見た、新聞を見たと言って翌日外来に来る方、今年はたくさんいましたね。(こんな薬を飲まされていたのか!と目が怒ってる)テオフィリンも使いようによってはと言っても、現状、専門医でもない小児科医が使用している中でテオフィリン関連痙攣→後遺症となったら自分の身を守る事ができません。けいれんがテオフィリンと無関係と証明するのは不可能でしょう。せっせとテオフィリン処方を中止する日々です。
疑わしきは・・・と言う姿勢は大事と思いますが、いつもの如くマスコミの非難は一面的ですね。

投稿: 小児がんと生きること管理人 | 2006年12月26日 (火) 18時35分

やぶ先生

 本当に困ったものです。正義の味方づらしてますが、困るのは苦しむ患者さんなのですから、いい加減にしてほしいところです。

投稿: クーデルムーデル | 2006年12月26日 (火) 22時57分

小児がんと生きること管理人さん

 ようやく吸入器を使用してのステロイド吸入剤が使えるようになったので、テオフィリンを使用せずとも乳幼児の喘息発作をコントロールしやすくなりそうでなによりです。とはいっても、発作を止める作用などからしてやはりテオフィリンを使わないというのは患者さんにとって不利益としか思えません。効果の発現の早さも持続時間も申し分ないですがね。

投稿: クーデルムーデル | 2006年12月26日 (火) 23時05分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/144860/4683055

この記事へのトラックバック一覧です: テオフィリン内服:

» 医師 喫煙 [医師 喫煙]
医師 喫煙 の案内専門サイトです [続きを読む]

受信: 2006年12月26日 (火) 15時46分

« 慌ただしい | トップページ | 男性用香水 »